「もしかして浮気遺伝子がある?」世の男性諸子には頭の痛い質問ですが、ご主人にそんな遺伝子があるかどうかは分かりませんが、ある種のほ乳類には、それと似たような遺伝子があることが知られています。

アメリカに住むプレーリーハタネズミは、私たちヒトと同様、一夫一妻制の夫婦関係を構築した数少ないほ乳類の一種です(多くのほ乳類はいわゆる「乱婚」的です)。彼らの一夫一妻制の強い結びつきには、大脳のある領域の神経細胞に、「バソプレシン受容体」と呼ばれるたんぱく質が多く存在することが関係あるらしいということがわかっているのです。

バソプレシンというのは、脳下垂体後葉から分泌されるホルモンで、9個のアミノ酸がつながった「ペプチド」です。つまりバソプレシンもたんぱく質の仲間といえば仲間なのです。その「受容体」とはすなわち、バソプレシンを受け取るたんぱく質なのです。このプレーリーハタネズミに対して「乱婚」的な、アメリカハタネズミには、バソプレシン受容体が少ないことが知られています。

2004年、アメリカエモリー大学の研究グループは、このアメリカハタネズミに、人工的にバソプレシン受容体をたくさん作らせると、乱婚的だった、アメリカハタネズミの中で、一夫一妻の「つがい」を形成する頻度が上昇することを発見しました。バソプレシンはそもそも高校で履修する「生物」では、「腎臓における水の再吸収を促進する、毛細血管を収縮させて血圧を上げる」重要な役割を果たすホルモンとして登場します。

実はバソプレシンは神経伝達物質としても知られるホルモンです。分泌されたバソプレシンが、細胞表面にあるたんぱく質であるバソプレシン受容体と結合することで、その神経細胞に何らかの刺激を伝えます。そしてその作用が、私たちの社会的認知行動、社会的な記憶といった、生きていくにあたって重要な行動に影響を与えると考えられています。もちろん人間の浮気との因果関係はわかりません。

そもそも乱婚的な生物システムを持った生物がたった一つの遺伝子のせいで一夫一妻制になったからといって、それが人間社会の「浮気」と「本気」に直結するわけではありません。それでも今後の研究成果は興味深いですね。