運動能力の高いスポーツ選手は、やかり特殊な遺伝子をもっているのでしょうか。よく聞く質問です。これには、「特殊というわけではありませんが、アスリートに正常なタイプを持っている人が多いと考えられている遺伝子はあるようです」というのが答えになります。

先日、世界陸上で金メダルを取った、ハンマー投げの室伏広治選手のお父さんも、かつてハンマー投げの選手で「アジアの鉄人」と呼ばれていました。この親子の場合は間違いなく、何か遺伝的な要素が関わっていると思われます。実際、筋肉の質という観点からすると、遺伝的要因が深く関わっていると考えられるようになってきました。

それが俗にいう「アスリート遺伝子」です。アスリート遺伝子は筋肉において発現し、あるたんぱく質を作り出します。正式な遺伝子の名前を「ACTN」といい、できるたんぱく質は「αーアクチニン」といいます。αーアクチニンは、アクチンフィラメントをしっかりと支える働きを持つ調節たんぱく質の一種で、骨格筋には「αーアクチニン2」と「αーアクチニン3」の2種類があります。

このうち「αーアクチニン3」は骨格筋のうち、瞬発力をもたらす「速筋」の細胞内で多く作られることから、とりわけ瞬発力を要求される運動能力に重要であると考えられています。ある調査では全世界の人口の10億人を超える人々で、このαーアクチニン3の働きを失っているという結果が出ています。

さらに、これまでの研究調査で、いわゆるトップアスリートと呼ばれるスポーツ選手では、正常なαーアクチニン3を作れる人が多く、親子2世代でもαーアクチニン3を作れる割合が高いと報告されているのです。すべてのアスリートがそうであるとはいえませんが、こうした疫学的な調査から、トップアスリートとαーアクチニン3たんぱく質には、どうやら関係がありそうだと結論づけることができるわけです。