口から入った食物が最初に長時間滞留するのは「胃」です。食物はこの最初の「関所」において2~3時間、小腸への通過を待たされます。とはいっても、体というのはよくできたもので、胃はただただ食物を待たせるだけではなく、強靱な筋肉による強力なぜん動運動によって食物を適度に胃液と混ぜ合わせ、細かく粉砕するのです。

さらに胃は、精神的な影響を受けやすいデリケートな臓器のくせにやることはけっこう生意気です。塩酸というとんでもない物質を分泌してその内容物を強い酸性にしてしまうのです。こうして食物は塩酸を含む酸性の胃液と混ざることによって、お粥のようにドロドロとしたものになります。

飲み過ぎや体調不良で胃の中のものをもどしたときに、一種独特の「酸っぱさ」は胃液中に分泌された塩酸、いわゆる「胃酸」に由来しているのです。ではなぜ胃の中は酸性なのでしょうか。おえーっとなった後、それを見て再び吐き気を催し、その臭いにつられて周囲の人間までも吐き気を催す。そんな世紀末的な修羅場をなぜ私たちは経験しなくてはいけないのでしょうか。

胃の中には「ペプシン」という「酵素たんぱく質」が、胃の内側の壁に埋め込まれた細胞から分泌されます。たんぱく質分解酵素の一種であるペプシンがきちんと働いて、食物中のたんぱく質をうまく分解するためには、実は胃の中が酸性であることが条件なのです。さらにまた胃の中を強い酸性条件下に置くことで、食物にふくまれているたんぱく質を「変性」させる目的もあると考えられています。