それまで生の肉を食べていた人類の祖先が、あるとき、火を使って肉を焼くことを覚えました。初めて火を使うことができた人類の祖先は、いわゆる「原人」で、北京原人やジャワ原人などがそうです。およそ160万年前に現れたとされる「原人」は、自分で火のおこし方を覚えたのか、自然に燃えている火を使ったのかはわかりませんが、とにかく火を使うことができるようになりました。

その火を使ってどうしたのかというと、食べ物を「焼く」ことを覚えました。火を使って食べ物を「焼く」ことにはたしてどういうメリットがあったのでしょうか。私たちも生活の中で「焼く」という行為を振り返ってみます。たんぱく質はアミノ酸の基礎的な配列の「一次構造」その上の「二次構造」さらにその上の「三次構造」「四次構造」を経てたんぱく質が生成されています。

食べ物を「焼く」たとえば、目玉焼きは、それまで透明だった白身が真っ白くなってしまいますが、これは卵白に含まれる、たんぱく質の三次構造が熱によって壊された結果です。これをたんぱく質の変性と呼んでいます。ときには二次構造まで壊される場合がありますが、食品を熱で加工しても、そのたんぱく質の栄養価が下がってしまうことはありません。

そのたんぱく質中のそれぞれのアミノ酸が含まれる割合は変わらないからです。牛肉のたんぱく質は、焼かれることによって、その肉が本来持っている筋肉のたんぱく質としての働きは失われてしまいますが、アミノ酸組成そのものは変わらないのです。